公務員科 伊藤先生が書きました 愛読書
ウエジョビでは毎朝10分間、学生さんたちが静かに読書をする時間があります。
その時々で手に取る本は、その時々の自身の心情が表れるような気がします。
これはもう20年近く、私をとらえて離さない本です。帯には2002年の文字が。
江國香織さんが紡ぐ様々な物語には、これといった出来事は何も起こりません。
その代わり主人公に共通するのは、必ず大切なパートナーがいてそのパートナーを心の底から愛していること。
その中でも『神様のボート』は江國さん曰く、「一番静かな狂気に包まれている物語」だそうです。
主人公は、姿を消してしまったパートナーを追い、ひとり娘を連れ、幾度も引越をします。
あのひとがいない場所に馴染むわけにはいかないと、潔くその場を離れ、流れるように移り住んでいきます。
赤ちゃんの時に連れられ、幼児、小学生、中学生と成長していく娘は、そんな母親に違和感を感じてとうとう独り立ちしていきます。
パートナーも愛娘も失った主人公は、やがて生きる気力をなくしていきます。
私にとってこれ以上の物語にはまだ、出会っていません。
……もしかして一番狂気じみているのは、ほかでもない私なのかもしれません…なんて。